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学会ニュース - 201312のエントリ

 現在、日本学術会議経済学委員会経済学分野の参照基準検討分科会は、「大学教育の分野別質保証のための教育課程編成上の参照基準 経済学分野」をとりまとめる作業をおこなっています。分科会の作業記録は、
http://www.scj.go.jp/ja/member/iinkai/bunya/keizai/giji-sanshoukijun.html
に掲載されています。
 経済学史学会の幹事会は、分科会からの意見照会に応じ、「経済学分野の参照基準原案」を検討し、下記のとおり、要望書を提出することにしました。




要望書


日本学術会議経済学委員会
委員長 樋口美雄 様

経済学委員会 経済学分野の参照基準検討分科会
委員長 岩本康志 様


 日本学術会議協力学術研究団体である経済学史学会の幹事会は、「経済学分野の参照基準原案(2013年11月11日付文書)」(以下「原案」と呼ぶ)を検討した結果、貴委員会に対し、以下のような要望を行うことにしました。
 学士課程教育の最終目的は――特に「創造的な人材の育成」(原案1頁)が求められている場合――真実とされていることを学生に真実と考えさせ、正しいとされていることを正しいと考えさせることにあるのではなく、何が真実であり、何が正しいのかを自分で判断する力を身につけさせることにあります。したがって、当該分野で確立された専門知識の内容そのもの以上に、知識がつくり出される精神と過程を学ばせなくてはなりません。
 このような立場に立って原案を読むと、全体として、確立された専門知識の習得に力点が置かれ、知識を作り出す精神・能力の涵養という視点が弱いように思われます。私たち経済学史学会幹事会は、経済学(および経済思想)の歴史を教えることが、後者の目的を達成するための有益な方法だと考えます。ミクロ経済学やマクロ経済学を基礎とする「標準的アプローチ」を採る場合にも、「発展途上の学問」(原案7頁)である経済学が、どのような経済社会や思想にもとづいて、またどのような学問的経緯をたどって形成されたかを教えることや、「標準的アプローチ」に収斂しない他の経済学説があることを教えることは、学生に、経済学を学ぶことの意義を悟らせ、それを使うときの限界をわきまえさせる上で不可欠だと言えます。原案が参考としている英国の分野別参照基準(Subject Benchmark Standard, p. 3)にも、学生が身につけるべき能力のひとつとして、”appreciation of the history and development of economic ideas and the differing methods of analysis that have been and are used by economists”と記載されています。
 経済学の歴史を通じて多様な経済学的思考法を学ぶことは、社会人、一般職業人の常識としての基本知識であるだけでなく、専門職や研究者を目指す者が視野狭窄に陥ることを防ぎ、問題設定能力、コミュニケーション能力、グローバルな市民性を高めることに貢献すると思われます。
 以上の点を考慮いただき、経済学史(経済思想史)を学士課程教育に不可欠な基礎として位置づけ、その旨を記載していただきますよう、強く要望します。

2013年12月1日
経済学史学会幹事会

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